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2010年9月

2010年9月28日 (火)

→pia-no-jac←

どもども、遊でございます。いえー。

告知はしていなかったんですが、2日間に渡って品川ホテルパシフィックの最上階・ブルーパシフィックのコンサートでパーカッション叩いてきました!

メインで使ってたのは、いわゆるひとつの(?)カホンです。

さぁーて、ここでカホンを知らない人のための、プチカホン講座~!!(これがやりたかった)

説明しよう!カホンとは…?

スペイン語で「箱」という意味で、ホントに箱型(縦長の立方体)をしています。中は空洞。上に座って側面を叩くのです。わーお!

ちなみにアルファベットではCajonと綴ります。カジョンじゃないよ。

これで→pia-no-jac←の謎はすべて解けた!(言ってる意味がわからない人はweb検索してみよう。ネット社会バンザイ!)

ちなみにちなむと、11月7日にも新宿某所でパーカッション叩きますよ~

先日書きました11月19日は歌です!まさかの歌です!ぜひご来場を!

ちなみに12曲ほどやらせていただけるそうで…てぇへんだ!(突然江戸っ子)

三角形の面積×2÷高さ=?

底辺だ!

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春に降る雪④ 第一章その3~回想1

冷たい空気が、そっと頬を撫でるのを感じた。心地いい。
僕はゆっくりと目を開けた。
空が見えた。小さな星が、儚げにいくつか瞬いている、夜空。
どうやら僕は横になっているみたいだ。
ここは…?
「あ。目、覚めた?」
どアップの晴香の顔が、夜空を遮って僕の視界を埋め尽くした。
「え、は、ハル…」
まさか。
後頭部に伝わる柔らかい感触。
ひ、膝枕?
途端に、鐘を打ち鳴らす鼓動。
起き上がろうにも、晴香が覗きこんでいるため、起き上がれない。
どきどきどき。
こいう場面に免疫がない僕は、完全に硬直した。
なんていうか…
ちょっと幸せかも。
夢でもいいや。
なんてね。
「心配したんだよ、急に寝ちゃうから」
そう言って、晴香は軽く僕にでこピンを見舞った。地味に痛い。現実の痛みだった。
「起きれる?」
真吾ならここで、「まだ、ちょっとめまいが…」なんて言いながら、この幸せタイムを長引かせるのだろうけど。あいにく僕は不器用だった。悲しいくらい。
「大丈夫、起きれるよ」
晴香が顔をどけて、僕は起き上がった。
軽く周りを見渡す。今日晴香と会った、駅前のベンチだった。
「よし、じゃあ帰りますか!」
晴香はやはり勢いよく立ち上がり、僕はのろのろとそれに倣う。
どっち方向か尋ねると、晴香は新宿方面だと答えた。僕とは逆だ。少し残念で、なぜか少しほっとする。
真吾の姿はなかった。晴香に聞いてみると、どうやらまだ飲んでいるらしい。幸せな奴。
晴香とはホームで別れた。
「また、会えるよね?」
別れ際、聞いた僕に、
「あったりまえじゃん」
晴香は笑顔で答えた。
発車のベルと共に、その笑顔は満員電車の中に消えた。
ケータイの番号も聞いてないと気づいたのは、家に帰ってからだった。


              *

その日も、僕は空を見ていた。
その日の空は、曇っていた。ぎゅうぎゅうにしきつまった灰色の雲が、ゆっくりと空を這っている。僕はいつものように、構内のベンチに座り、ぼんやりとそれを見つめていた。
僕は空を見るのが好きだ。
空を見ていると、なんだか空っぽになってゆく気がする。体も、心も、自分自身も。寝ているわけじゃないんだけど、意識は完全に宇宙のどこかを彷徨っている。平たく言えば、何にも考えずに、ただぼけーっとしているだけなんだけど。
修行僧が目指す、悟りの境地とは、案外こんなところにあるんじゃないだろうか。なんて、考えたり、考えなかったり。まぁ、どっちでもいいか、そんなの。
予報では、夕方ごろから雪が降るらしい。もう3月に入るのに、ずいぶん雪ものんびり屋になったもんだ。ゆとり教育の影響かもしれない。
時刻は16時をまわろうとしていた。かれこれ3時間ほど、ぼんやりしていたことになる。まぁ、いつものことだ。僕はひとつ伸びをして、さぁて、と呟く。この言葉がないと、僕は行動を開始することができない。僕のスイッチを入れる、魔法の言葉だ。きっと前世は魔法使いだったんだろう。あるいは、ナマケモノか。
僕はとりあえず立ち上がった。周りには人影がない。いつもなら相当にぎわっている…とは言わないまでも、そこそこ人がいるはずのキャンパスに、今日は誰もいない。
寒さ、かな。僕は独りごちた。雪が降るのにふさわしく、今日は気温がめっぽう低い。しかもこのキャンパス内には強いビル風が吹き込むようになっている。外に出たがらないのも頷ける話だ。
そこまで推測してから、僕はその件のビル風に自分が襲われている事実に気付いた。
…寒っ!
さすがに、この寒空に3時間居座った僕の体は、ひどく冷えていた。言ってしまえば、製氷機の中に3時間いたようなものだから、当然だ。
ちきしょう、風邪でもひいたら、許さねぇ!
何を許さないのかはまったくもって不明だが、僕はその怒りを原動力に、自販機まで歩きだした。ホットコーヒーが僕を呼んでいる。
後ろから声をかけられたのは、その時だった。
「ねぇ、キミ…」
背中越しに聞こえてきた声に、僕は歯をがちがち鳴らしながら、怪訝そうに眉を寄せて、振り向いた。きっと、そうとう変な顔をしていたに違いない。
振り向いた先にいた彼女は笑顔だった。いや、僕の顔を見て笑ったわけではない。断じてない。と思う。
150センチほどしかない身長。髪は肩にかかっている。クロスしたオレンジ色のヘアピンが印象的だ。赤と緑のチェックのスカートに、黒いブーツ。上は赤っぽいセーターを着ていた。
僕は視線を上げ下げして彼女を見、結論をだした。中学生だ。あるいは、せいぜい高校1年生。
なんで、大学のキャンパスにこんな娘が紛れこんでいるんだろう?というか、明らかに年上の僕をキミ呼ばわりとは、彼女は日本の縦社会を知らないのだろうか?
「ねぇ、ちょっと案内して欲しいんだけど…」
彼女はそう言いかけて、急にまじまじと僕を見た。視線を上げ下げして。
「キミ、高校生?」
違うわ!
元来童顔なのと、男にしてはそんなに高くない身長のせいで、僕はよく高校生と間違われる。
それは事実だ。だが、こう見えても僕はれっきとしたハタチだ。悪いけど、タバコを吸おうと、酒を呑もうと、法的には何の問題もない。
『法的に問題はねぇけど、画的には問題ありありだよな。似合わなさすぎる』
とは友人の真吾の弁だ。
だが、初対面の中学生に言われる筋合いはない。
「悪いけど、僕はこう見えてもハタチなんだよね。君とは違ってさ」
ちょっと偉そうに言ってみた。どちらかというと引っ込み思案な子供だった僕も、そんなことができるようになるとは、歳の力は偉大だ。
「そうだよね…ごめんなさい、あたしとは違うね」
素直じゃないか。僕がいつの間にかなくしてしまった素直さに感動していると、彼女が続けた。
「あたし、もう21だもんね」
…あ、年上でしたか。
「あたし、ハルカ。よろしくね。キミは?」
「フユキ、…です」
「いいよ、敬語じゃなくて」
ハルカは手を差し出した。
「はい…」
僕は、寒さに震えながらその手を握った。ほんのり、暖かかった。

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2010年9月20日 (月)

春に降る雪③ 第一章その2


『エフ』は何とも形容し難い店だ。
営業形態はバーに近い。バーカウンターがあり、テーブル席もいくつかある。店内の明かりは暗めで、店に入ると蝶ネクタイをしたマスターが迎えてくれる。
だが、提供されるアルコールは3種のみ。日替わりのウイスキー、焼酎、日本酒。以上。それ以外に酒は一切ない。ディスプレイすらされていないから驚きだ。言うなれば、『頑固親父、こだわりのバー』みたいな感じだろうか。何だ、それ。
そのぶん、なのかどうかは不明だが、料理は充実している。お刺身から、から揚げ、ステーキ、パスタまで、なんでもござれだ。仕入れによってある程度変動はあるが、お酒の種類の貧相さに比べれば、輝かしいほどの豊富さといえる。
マスターの料理の腕は、何気に超一流だ。実はこのマスター、とあるミシュランガイド3つ星レストランの総料理長を張っていたこともある、…という噂もちらほら…ということだ。残念ながら、本人が言っていることなので、信憑性には欠けるが。
なぜレストランにしなかったのかは不明だが、きっとこのバーっぽいお洒落な雰囲気が、マスターの趣味なのだろう。
入ったばかりのころ、一度聞いてみたが、セブンがどうのヘブンがどうの…と、よく意味のわからないことを、数十分に亘って語られる羽目になってしまった。それ以来、余計なことは聞かないようにしている。世の中には、知らないほうがいいこともある、ということだ。うん。

からん。
僕はハルカを連れて、『エフ』のドアを開けた。時刻は、6時を少し回ったところ。
シンゴ以外に客はいない。まぁ、この店はいつもこんな感じだ。夜はせいぜい多くて二組ほどの客しかいない。どう採算をとっているのか不思議でしょうがないが、聞かないことにしている。世の中、知らないほうがいいこともある。特にこの店には。つまりはそういうことだ。
落ち着いた暗めの照明に彩られた店内はさほど広くない。入って左手に4名がけのテーブルが二つ。右手側はL字型のカウンターになっていて、4・2で椅子が並んでいる。テーブル席の奥にも4名席が二つあるのだが、半階ほど下がったところにあるので、入り口からは見えない。この席を使うことは稀だ。今日も、奥の方だけ照明が消えていた。
いかにも「大人の隠れ家」的な雰囲気が漂う中、かかっているのはジャズなんかではなく、デス・メタル(一応ヴォリュームは絞ってある)だった。マスターの趣味を疑わざるを得ないが、この店には聞かないほうが以下略。
扉を開けた僕らに、先に気付いたのはマスターだった。
正確な歳は聞いたことがないが、見たところ30代後半だろうか。鼻の下に髭をたくわえ、白い糊の効いたシャツに、紫色のチョッキを着ている。いかにも絵に描いたようなバーのマスター、といった風貌だ。
そのくせこのオヤジは、未だにカクテルのレシピをひとつも知らない。
『フユキ…マティーニって、何の武器だ?』
と聞いてきたのも、ついこの間の話だ。
いや、武器て。
まぁ、そもそもカクテル用の酒が何も置いていないから、当然といえば当然か。ビールすらねぇし。商売する気がさらさらないことが窺える。
そのかわり、と言っちゃ難だが、料理は抜群にうまい。何度も言うが、何でレストランにしなかったのかが不思議でしょうがない。
ちなみに本名は不明だ。何故か教えてくれない。よっぽど恥ずかしい名前なのだろうか?
僕とハルカが店内に足を踏み入れると、
「君達、背伸びしたいのはわかるが、こういう店に来るのはいささか早いんじゃあないかい?」
マスターの第一声がそれだった。いらっしゃい、の一言もない。
僕が休みの夜この店に来ると、いつもこういう類のことを言いやがるのが、マスターの趣味だ。
…とりあえず無視して入ることにする。いつものように。
カウンターで、すでにロックグラスを傾けていた真吾もこちらに気付いたようだ。もう顔が赤い。
いかにも大学生的な茶髪にピアス。今日もパーカーにジーンズの基本装備に身を包んでいる。こう見えて根がいい奴なのだが、それ故に損な役回りが多いらしい。合コンも幾度となく失敗しているようだ。懲りている様子は微塵もないけど。
片や、僕は合コンなんて経験は一度もない。交友関係も相当狭い。うーん、根が悪い奴だからかな。
そんな僕とはまるで接点のない彼が、何故僕を友人の一人に選んだのか?
以前聞いてみたら、
『いや、「天一」好きに悪い奴はいないって。俺ぐらいかな!なんつって!』
ということらしい。
そこかよ。
僕らに気づいた真吾は、
「…フユキ、ナンパすんのもいいけど、それは犯罪だぞ?でもいい!許す!今日は無礼講じゃ!ハッピバースデー!」
一人で盛り上がっているようだった。微笑ましい限り。
僕は真吾の隣りに座る。ハルカも黙って僕の隣りに座った。僕が、
「いつもの水割りで」
と、ちょっとカッコつけて言ってみると、なぜだかウーロン茶が出てきた。律儀に水で割ってあるらしく、色が薄い。
軽くマスターを睨んでみると、なぜかウインクしてきた。どういう意味だよ。
「お嬢さんは?」
ハルカを見て、マスターが聞いた。
ハルカは、こんばんはー、とにこやかに挨拶してから、
「とりあえず、芋ロック。おっきいジョッキでください」
にこやかに、注文した。

「いつも兄がお世話になっております」
ぐはっ!
ごほ、ごほっ!
とりあえずの乾杯の後、いきなりハルカの不意打ちをくらって、僕は噴き出した。
「あ、妹さんでしたか!俺、兄さんの友人っていうか、主人と召使いの関係のシンゴって云います。独身です。よろしく…って何やってんだ、お前」
激しくむせる僕に、真吾は冷ややかな視線を送る。僕は何か言おうとしたが、声にならなかった。
ハルカは相変わらずにこやかに、ジョッキを傾けている。くそぅ、この笑顔がこんなにも憎らしいとは…
「弱いくせに無理すんなよ…すいませんね、こいつカッコつけていつも失敗するんすよ」
真吾が珍しく僕をフォロー…じゃないな、全然。
「あ、その話聞きたいなぁ」
「この前もね…」
真吾は、何故か自慢げに、僕の失敗談を語ろうとする。
僕は深く深く息を吸い、
深く深くより深く吐いて、
「改めまして、紹介します。こちらハルカさん。妹じゃありません。僕より年上です」
気持ち、大声で言った。
シンゴの動きが止まった。
マスターの目が2ミリほど大きく開いた。
「…マジ?」
見事なハモリだった。
ていうか、マジじゃなかったら、お酒提供しちゃダメでしょ。
「あーあ、バレちゃった」
晴香は、わざとらしく舌を出して見せる。どう見ても、中学生的な仕草だ。狙っているとしか思えない。
「どうも、天気の晴れに香りで、晴香といいます。じつわフユキ君より年上です。以後よろしく」
「よろしくぅ!ハルカちゃん!」
だから年上だってば。
初対面でちゃん付けかよ。
まぁ、真吾にしては、「ふつう」なのかもしれないが。
晴香は特に気にした様子もなく、僕を挟んで、真吾と再度乾杯なんかしている。
あ、僕は置いてけぼりですか。
「コウセツもコウセツで反則だが」
マスターが頷きながら呟く。何に対して頷いているのかは不明だ。
「君はどう見ても…うん、ウィーグラフ級だな」
いつもながら例えの意図がまったくわからない。なんだウィーグラフって?まぁ、おそらく、お得意のゲーム用語なんだろうけど。
マスターは無類のゲーム好きだ。卯之恵さんから聞いた話によると、夜な夜な真吾と語っていた「まてりあ」というのも、ゲーム用語らしい。僕にはよくわからない世界だった。
「えーと、つまりはハルカちゃんはかわいい、つーことだよ」
真吾がとりあえず通訳する。当然のごとく意味を理解しているようだった。おそらく、ウィーグラフというのが、かわいいキャラなのだろう。そのくらいは僕にも想像できる。
「ところで、コウセツっていうのは?」
サラッと流して晴香が尋ねる。流されることに慣れているシンゴは、対応が早かった。僕を指差しながら、
「あぁ、こいつのこと。フユキのことだよ」
「へぇ…父さんと同じなんだ」
晴香は、口許を緩ませながら頷いた。
「親父さんコウセツって名前なの?変わってんねぇ」
「うん、光に刹那の刹でコウセツ」
「こいつは降る雪なんだよ、まんまだよなー」
真吾が僕を指差す。僕は黙ってウーロン茶を嘗めた。薄い。
「スコール、ではないんだよな」
マスターがつぶやくが、全員無視。晴香もすでに心得たようだ。
「しかも!うちの父さんも、旧姓が『冬木』だったんだ」
「旧姓?ってことは、婿養子?勇気あるなぁ、マスオさん!」
完全に酔っている(とは言え普段も酔っているようなテンションだが)真吾とは対照的に、晴香はいつの間にか、顔色ひとつ変えずジョッキを空にしていた。僕は相変わらず薄いウーロン茶をちびちびしている。なんだか虚しい。
「フユキくん、あなたも何かしゃべりなさいよ」
晴香が僕に振ってきた。そんなこと急に言われてもなぁ…
「何か」
僕がそう言うと、
「…あんた、なめてんの?」
思いっきり睨まれた。顔色は変わってないが、しっかり酔ってらっしゃるらしい。口調がマジだった。殺気すら感じられる。
「えーと、じゃあハルカさん」
「ハ・ル・カ。敬語はやめなさい」
どうやら、晴香は女王様気質であらせられるようだ。
「…ハルカって、今学生なの?」
とりあえず、当たり障りのない質問から。
「うん、今ねぇ、中3だよ」
…え?
「…マジ?」
再び、ハモった。今回は3人で。
あはは、と晴香は笑いながら、
「なんてね~。うそうそ。今はねぇ…ちょっと家業手伝ってるんだ」
「家業?」
「フユキくんたちは?って、まだ学生か」
僕の疑問をこれまたサラッと流して、晴香が言う。
「いやぁ、こいつ学校クビになったんだよ。な!」
「あ、うん」
…クビ?
頷きながらも、真吾の表現が胸に引っかかった。
僕は、自分の意思で大学を辞めたつもりだったんだけど。
それを、クビ、と表現するだろうか。
まぁ、酔っ払いだしな。
「そう、ちょうど一年前くらいに辞めたんだ、学校」
一年前。
一年前といえば…晴香と会った時期じゃないか?
胸の奥で何かが疼く。
ダメだ。
これ以上は。
何かが警告している。
忘れろ。
屋上。
雪。
黒。
音。
朱。
朝。
僕は…?
「…ユキくん?」
「フユキ?」
「コウセツ?」
気づいたら、3人が僕の顔を覗き込んでいた。途端に、どっと汗が噴き出す。
今のは…
いや、考えるのはよそう。
「いや、ちょっと貧血で」
「なんだよ、それ。レニバラ食え、レニバラ!」
真吾が面白くなさそうに言う。心配してくれている証拠だ。
「コウセツ…お前マコウでも浴びたのか?」
なんだ、マコウて?言ってることはよくわからないが、マスターも心配してくれている…のか?よくわからなかった。
「フユキくん…」
晴香の方に向き直る。その目には、心配よりも戸惑いが見て取れた。

「なんで、大学辞めたの?」

なんで、なんで、なんで。
晴香の言葉は、ナイフのように僕の胸をえぐった。
痛い、痛い、痛い。
忘れろ。忘れろ、忘れろ。
何かが、暴れだそうとしている。
怖い、怖い、怖い。
がたがたに崩れていく内面を押し殺して、僕は平静を保った。
保とうと、した。
「マスター、」
「なんだ?」
「ちょっと強いの、ください」
何も言わず、マスターはウィスキーをストレートで出してきた。僕は、それを一気に飲み干す。喉が焼けるように熱い。だが、おかげで胸の奥の痛みを忘れることができた。
「僕は…」
視界が歪んできた。あんなの一気に飲むから。
「僕が辞めた理由は…」

G大学を受けることにした理由は、単純明快だった。東京に出たい。その一心だった。
同じ世代のほとんどの人たちと同じく、僕も将来というものが漠然としか見えていなかった。将来なんて、ずっと遠くに見える蜃気楼みたいなものだった。
昔に比べると、今の若い人には道が開かれている、と大人たちは言う。恵まれている、と。
おそらく、その通りだ。僕の前には、僕らの前には、数え切れないほどの、可能性という名の道が、幾多にも広がっている。
恵まれている。いや、恵まれすぎている。
それ故に、僕らは道を決めかねる。
僕らは、多くの自由を手にしている。だが、自由を受け入れる器を、僕らは持っていない。
そうして、僕らは手に余る自由に溺れて、息も絶え絶えに泳ぐ。
例え不自由という名の島を見つけたとしても、一度知ってしまった自由という名の海から離れることができない。その勇気がない。
とりあえず、大学に行っておけば。そんな安直な考えで進学した大学。幸いにしてか、不幸にしてか、成績は悪くなかった僕は、大した苦労もなく、入学することができた。
だが、そんな進学に意味などあるのだろうか?
そうは思いながらも、辞める勇気はなかった。辞めてまでやりたいことなど見つけられず、ただズルズルと流されるだけの日々。
そんな僕が、大学を辞めた。
転機が、訪れた。
なのに、
はずなのに、
それが、何故だか思い出せない。
溶けたシャーベットみたいに、
原型をとどめない記憶。
僕は、
どうして大学を辞めたんだ?
辞めることができたんだ?
「フユキくん…」
晴香が、歪んで見える。
あれぇ?
一杯しか、飲んで、ないんだけど、な。
「ったく、まぁた弱いくせにカッコつけちゃって…」
意識が途切れる前、真吾の声だけが、なぜかはっきりと耳に焼きついた。

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それでも町は廻っている

そう、なにやらいろんなことが起こりますが、

それでも町は廻っておるのですよね、うん。

あるいは、世界は。

そんなわけで(?)、宣伝ですよー。心して聞くように。


11月19日(金)
新宿 Qui 音ステージ
03-3341-1492
新宿三丁目駅C4出口すぐそば。マルイANNEXの真裏です。 http://music.geocities.jp/chansonqui/index.html
☆尾藤ヨウコさんのステージに出させていただける運びと相成りました!なんと歌うのです(笑)…って、そこ!笑うな!…どうぞ奮ってご参加(?)くださいませ~
1st 19:45~ 2nd 21:00~ 3rd 22:00~
チャージ 5500円 1ドリンク&おつまみ付
ついでにhttp://jp.myspace.com/yuohta



こら、そこ!読みとばすんじゃないよ!

そんな感じで久しぶりに表に出ます(え、告知してないけどいろいろ出てるじゃないか?←黙殺)ので、どうぞよろしく!

久々にお会いしましょう、見知らぬ誰か!(知らない人は久々じゃない気がする)

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2010年9月16日 (木)

春に降る雪② 第1章その1

小さい頃から、空を見上げるのが好きだった。
刻々と変わっていく、雲の形。嘘のような透明感に満ちた、青色。真理と神秘が秩序立てて混在している、星空。 暇さえあれば、空を見ていた。
学校が終わるといつも、川のそばにある小高い丘に、一目散に駆けて行ってたっけ。僕だけの、特等席。友達が誘いにくるか、親が心配して探しにくるまで、僕はそこに寝そべって、ぼんやりと雲間を漂っていた。
東京に来て最初に感じたのは、空の狭さだった。田舎にいたころは、どこまでも広がっていた空が、ここでは、ビルの隙間に垣間見えるほどしかない。なんだか、すごく窮屈な感じだった。それまでの解放感に満ち溢れた巨大な蒼のスクリーンは、都会の隙間からこぼれるブツ切れのフィルムに変わってしまった。
それでも僕は、空を見上げるのが好きだった。
どうしてなのか、理由は僕自身にもわからない。まぁ、理由なんて、どちらでもいいことだ。理由なんて、つまるところ後付けの言い訳に過ぎないのだし。
そんなわけで、なのかどうかはわからないが、こうやって今も、僕はぼんやりと空を眺めている。
3月。暦の上ではとっくに春のはずなのだけど、時折吹く風は相変わらず冷たい。程よく冷やされた空気を、肺に満たす。同じ排気ガスにまみれた空気なのに、冷たいほうが美味しく感じるのは何故なのだろう。
ちらりと時計を確認してみた。約束まではまだ時間がある。
僕は、駅前の広場のベンチに座ったまま、もう少し空を眺めていることにした。

30分ほど前、僕はバイトを終えて、駅までの道を歩いていた。
もう日が暮れ始めている。まだまだ日が暮れるのは早い。通りの脇に、行儀良く立ち並ぶビル群からは、黒いコートに身を包んだサラリーマン達が、いそいそと家路に着き始めていた。
ブブブ…
ポケットの中で、携帯が震えている音がした。取り出してみると、ディスプレイには、『シンゴ』の文字が。僕は一瞬迷った後、通話のボタンを押した。
「もしもし?」
「お、珍しい!フユキが一発で、しかも2コール以内に出るなんて!奇跡だ!今日は雪が降るぞ!…って今春だから!マーチ!」
いきなり一人ノリツッコミだった。
「…切るよ」
僕はうんざりした声で、通話終了のボタンに指を乗せる。
「あ、あ、あ、ごめんごめん、そーりーそーりー。悪かった、うん、これは間違いなく俺が悪いわけではないが、一応謝ってみるか。すいませんでした!ごめんなさいませ!もうしわ…」
…ピッ。
無言で電話を切ると、またすぐさま電話が鳴った。再び『シンゴ』の文字。
ピッ。
通話のボタンを押す。
「…」
「あ、フユキ?お疲れー。今暇?」
30秒前の会話とテンションは、もう忘れたらしい。まぁ、それが稲荷真吾の稲荷真吾たる所以だ。僕は、首をやれやれの方向へ傾けた。
「…今バイト終わって、帰ってるとこだけど?」
「そーか、暇か」
いや、暇とは一言も言ってないけど。真吾はおかまいなしに話を続ける。
「バイトって、『エフ』だろ?」
「そうだよ」

『エフ』は僕がバイトしている小さな店だ。昼間は定食屋。夜はバー。しかも品揃えはマスターの趣味の独壇場。という、一風怒涛に変わった店。
ちなみにそんな変な店で働くことになったのも、今電話している真吾の紹介だ。『エフ』の常連である彼に連れて行かれたのが、きっかけだった。
思い返してみると、もう1年近く働いていることになる。
『いい店…かどうかはわかんねぇけど、変な店があんだよ。今夜のみ行かねぇ?』
いつものように学食で僕を見つけた真吾はその日、開口一番そういった。
変な店…?
真吾は僕と違って交友関係が広い。そんなつもりは毛頭ないのだが、なぜか自然と周りの人間が遠ざかっていく僕に対して、逆に真吾には周りの人間が自然と寄ってくる。お互いが、そういうチカラを持っているかのように。彼が今、僕の前に座っているのは、彼のチカラの方が勝っていた結果だろうか。
僕は一度も誘われたことのない(無論、主催などもってのほかだ)合コンなんかも、しょっちゅうやっているようだ。その彼がなぜわざわざ僕を、もっぱら自宅でしか酒を飲まない、付き合いの悪い僕を、誘ったのかがわからなかった。適任は、そこらに転がっているんじゃないのか?
聞いてみると、
『いやぁ、マスターが変わった人でさ。マトモな奴じゃダメなんだよ、あそこは』
つまりは、僕がマトモじゃない奴のカテゴリに入ってるってことですか。
まぁ、否定はしないけど。
そんなこんなで連れて行かれた店で、よもや働くことになろうとは。
まったく、人生とはわからないものだとつくづく思う。

「そおか。がんばってんねぇ。父さんは嬉しいよ」
いつから父さんになったんだ、お前。
「いやぁ、たまには俺も『エフ』に顔だそうと思ってさ。お前にも最近会ってねぇし。飲み行こうぜ」
たまには?
…一週間に一回は行ってるだろ。
真吾は『エフ』の相当な常連だ。僕がバイトしているのは昼間だけなので、ほとんど会うことはないが、マスター曰く、夜は週一ペースで通っているらしい。マスターとしか話せない話題が、真吾にはあるということだった。
『いつも、何の話してるんですか?』
マスターに聞いてみると、
『そうだな…マテリアについてとかだな』
マスターはグラスを磨きながら、渋い声で答えた。
まてりあ?
何だ、それ?
疑問符は浮かんできたが、僕は深追いせず、そうですか、とだけ言ってその話を切り上げた。世の中知らないほうがいいことがある。それが、この店で学んだことのひとつだ。
「出戻りにゃなるけど、行かねぇ?」
真吾は、再度誘ってきた。
「うーん」
まぁしかし、そういえば最近真吾とは会っていない。大学で知り合った彼とは、一年ほど前、僕が大学をやめてから、やや疎遠になっていた。彼がごくごく稀に、昼間『エフ』に来るときに会うか会わないかくらいだ。電話は無駄にかかってくるが。
うーん、久しぶりに飲むのも、悪くないか。
「わかった。何時にこっち来る?」
「え、マジで行くの?」
「いや、お前が誘ったんだろ」
「おう!イエス!ウィー、」
「きゃん」
「キャ…って、おいしいとこもってくんじゃねぇ!」
「えーと、今5時だろ…じゃあ6時に店でいい?」
「オーケー!ぼくじょ…」
ピッ。
僕は返事を待たずに、電話を切った。

それが30分前のこと。
駅から店までは、ゆっくり歩いてもほんの10分程度だ。まだ時間は十分にある。
そんなわけで、僕はぼんやり空を眺めていた。晴れ渡っていた空は、暮れゆく夕日にほんのり朱く染められていく。
落日。
この時間が、僕は好きだ。
昼と夜の境目。
マジック・アワー。
一日で、最も、
淋しくて、切なくて、
そして、輝いている時間。
 光と闇が、溶け合い、混ざり合い、じわじわと比率が逆転していく。
 まるで、人の心のように。
 まるで、人の命のように。
「なんてね…」
 街が夜の顔に変わっていくのを、僕はじっと黙って眺めていた。

「フユキくん…だよね?」

不意に、背中越しに声が聞こえた。
聞き慣れない声。
でも、なぜか懐かしい声。
誰だ…?
振り返るとそこに、中学生くらいの少女が立っていた。
150センチあるかないかくらいの身長で、ショートヘアに特徴的なクロスしたオレンジ色のヘアピン。薄桃色のトレンチコートを羽織っている。
見覚えがある…
確かに、知っている。
だけど、思い出せない。
…誰、だっけ。
こんな特徴的な少女を忘れるわけないと思うんだけど。
僕の怪訝そうな顔を見て、彼女は呆れたように僕を見た。
「あたし、ハルカ。覚えてない?」
ハルカ…?
えーと、…
「あ」
思い出した。
確か、去年の今頃。僕がまだ大学に通っていたころ。
あの時も、これくらいの時間だったっけ。
すごく、寒い日だったのを覚えている。
たまたまベンチに座って、今日のように空を眺めていた僕に、案内をして欲しい、と頼んできたのが彼女だった。 確か構内を少し案内して、すぐに別れたはず。
「思い出したみたいね」
「あ、えっと、お久しぶりです」
そう、こう見えて彼女は年上なのだ。初めて会ったときも、中学生と間違えた。そして僕は高校生と間違われた。一応、大学構内だったんだけど。
「敬語じゃなくていいってば」
ハルカは、一年前と同じ科白で、僕の隣に腰掛けた。ひとつため息をついて、
「相変わらず、高校生みたいだよね…ま、いいや。せっかくの再会なんだから、お茶でもしようよ」
いきなり逆ナンされてしまった。
珍しいこともあるもんだ。
雪でも、降ったりして。
少し、いや、正直なところかなり惹かれたのだが、根が律儀な性格が災いした。考える前に言葉が口を突く。
「うーんと、これから友達と飲みに行くんだけど」
言ってから、しまった、と思う。僕は今、千載一遇のチャンスを逃したんじゃないか?
ていうか、チャンスって?何のチャンスだ?
どうでもいいような逡巡に頭を抱え込む僕に、ハルカが返してきたのは意外な言葉だった。
「じゃあ、ちょうどいいじゃん」
ちょうどいい?
「あたしも連れてってよ」
笑いながら、ハルカはそう言った。
「へ?」
言葉を噛み砕いて、飲み込むのに3秒ほどかかった。
「…フユキくん、大丈夫?」
「え、あ、うん」
「あ、もしかして実はデート?あたしお邪魔かな」
「い、いやいやいや、ぜんぜんぜんぜん」
全力で首を振る僕。
「じゃ、いこっか」
ハルカは勢いをつけて立ち上がった。僕もそれに倣う。
今日、雪降るよな。絶対。
闇に飲まれていく夕日を見ながら、ハルカに聞こえないよう小さく呟いた。

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2010年9月15日 (水)

ネムルバカ

突然ですが、ブログ上で小説を連載してみることにしました。つっても今は書く時間がなかなかないので、昔書いたのの焼き直しですが。お暇な方はどうぞ。けっこう長いよ。たぶん。

毎日いい感じで過ごしております。曲作りもまぁ順調。がんばるぞー

以前読んだマンガなんですが「ネムルバカ」という、何なんだこのタイトルは!バガボンドか!みたいなのがありまして(けっこうマイナーですが)、それを思い返して、ふとオリジナル音源をアップしたり、小説をアップしたりしてみた次第です。評価してもらうのを、恐れちゃあかんね、うん。

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春に降る雪① エピローグ

エピローグ

 西新宿の一角。40階はあるであろう、ビルとビルのわずかな隙間に、忘れ去られたようにその建物は鎮座していた。5階建ての小さなビル。メンテナンスなんてしていないであろう、ところどころ剥げた外装は、長い間、この場所がこの建物の指定席であったことを物語っている。
 その存在を知らなければ、間違いなく素通りしてしまうであろう、アスファルトに咲く花のようにひっそりと佇むその建物に、ぎっしりと詰まった買い物袋を両手に抱えた僕は向かっていた。
「…やれやれ」
 ここに来て、1年程。買い物は僕の担当だった。
まぁ、重いもの持つんだし、料理するのは僕だし、ぜんぜんまったくこれっぽっちも、苦ではないのだけど。
 ないのだけど、やはり、たまには息抜きしたい、とか考えてしまうのは、人の業ってやつだろうか。いや、主婦の業、か?
ま、いいんだけど。
そう、今、僕は無職だ。
働いていない、と言えば語弊がある。が、その労働力が金銭へと変換されることなく消費されているのは間違いない。結局のところ、今の僕は彼女の貯金の切り崩しによって生かされているのだから、世間的に見ればヒモと変わりないことになる。心外ではあるけれど。
 手動のドアを、体重を利用して開く。両手の荷物をいちいち下ろす気など、毛頭ない。完全に横着しているなぁ、僕。
 入ってすぐ横に、守衛室。1日のほとんどを留守にしている守衛のおじさんが、今日は珍しく中にいた。彼は僕に気付いて、新聞を読んでいた目を上げる。
「どうも」
 軽く頭を下げた。
「おぉ、ご苦労さん。どうだい、嬢ちゃんは」
「まぁ、ぼちぼちです」
 自分でも意味のわからない言葉を返す。だって、質問の意味もよくわからないのだから仕方がない。
「そうかい、まぁ、ほどほどにな」
 よくわからない返事を返して、守衛のおじさんは、再び新聞に目を落とした。よく見ると、日経。
「えぇ」
 僕は曖昧な笑顔を見せてから、奥に向かう。
 まったく、謎なおじさんだ。
 普段何をしているのか?何故たまにしか顔を出さないのか?そして何より、誰が雇っているのか?
 ハル曰く、
『うーん、あたしがここに来たときからいるんだよね、彼。誰が雇ってるんだろうね?あたし以外住んでないのに…あまりに謎だから放っといたけど。実害ないし』
 いや、放っとくなよ!
 思い出しため息をひとつ。まぁ、悪い人じゃなさそうだけどさ。
 向かって奥、正面のエレベーターの前まで来ると、僕は迷わず、回れ左で階段の方を向いた。エレベーターにはちょっとしたトラウマがあるのだ。
「え?」
 思わず、声を上げてしまった。
 階段に、少女が二人腰掛けて、居眠りしていた。しかも、鏡に合わせたかのように、まったく同じ二人が。
 …双子か?
まだ、小学生中学年くらいであろう、幼い顔立ち。服装も、髪型も、おそろいだった。
 えーと…
 とりあえず、どいてもらわないことには、階段が使えない。でも、何となく起こすのも忍びない。
 ていうか、何でこんなところに?
 このビルに入ってくる人物など、ここ1年間で一人もいなかった。用がある人は勿論、間違えて入ってくる者すら、いない。それくらい目立たない建物なのだ。
 遊んでいて、紛れ込んだのか?
 それでもエレベーターに乗るのが嫌な僕は、しばらく考え込んでいた。
 どっちにしろ、ほっとくわけにもいかないし、な。
 意を決して、彼女たちを起こすことにする。
 とんとん。
「君たちぃ。起きてぇ」
 …反応、なし。
「…ふぅ」
 すうっ
 思いっきり、息を吸う。
「おっっきろぉぉぉぉぉぉ!」
 …
 反応、なし。
 太字レベルで、叫んだのに…
「どうした?」
 振り向くと、守衛のおじさんが窓から身を乗り出していた。
「おじさん…この子たちは?」
「知らんなぁ」
 何のための守衛だよ!
 と、言いたいところだが、雇い主でもないのに言うことはできない。
「わしも忙しいからな。誘拐もほどほどにな」
 そう言って、おじさんは身を引っ込めた。
いやいやいや。
 どうして、そうなる。
 ちん
 途方に暮れた僕は、エレベーターの音で振り返った。
「あ」
「ふぁぁ…どうしたの、フユキ?馬鹿みたいな大声出して」
 降りてきたハルは、寝ぼけ眼だった。
 お前も寝てたんかい。
「ん?…誰、この子たち」
「いや、それがさ」
「誘拐してきたの?金持ちの家っぽくは見えないけど…」
 って、なんでまたそうなるんだ!
「でも、それって最低だよ」
 …
 濡れ衣で、軽蔑された…。
「何の薬使ったの?」
「いや、だから何でそうなんの?」
「…ふふふ、冗談だよ。フユキがそんなことするような人じゃない、ってことは、あたしだけは信じてるから」
 他の人は、信じてないのか?
 僕、何か、しましたっけ。
「それにしても、可愛い子たちだね。こういうのがタイプ?」
 だから、それから離れろ!
「ハル…」
「しっ。目、覚めたみたいだよ」
 双子の片割れが、薄く目を開いた。ぼんやりした目で、辺りを見回す。僕らの姿を認めると、
「うっ、うっ、」
 …え?
「うっ、うわぁぁん」
 泣き出した。
 連鎖反応で、もう一人も目を覚まし、まったく同じ動作を経た後、
「うっ、うえぇぇん」
 やっぱり泣き出した。
 苦手なんだよなぁ、こういうの。
「あー、フユキ、なーかーしたー」
「いや、僕じゃないでしょ」
 泣き続ける子供たち。
ったく。
「えーと、泣かないで、泣かないで…お兄さんたち、決して怪しい人じゃ…」
 言いながら思う。この科白、相当怪しい。
「ミーちゃん…」
 ミーちゃん?
 よくよく聞くと、泣きじゃくりながら、彼女たちは、ミーちゃん、ミーちゃん、と繰り返している。
「ミーちゃんが、どうしたの?」
 優しい口調で語りかける、ハル。こういうとき、女は強いな、と思う。男なんて、役立たずだ。特に、僕。
「ミーちゃんが…ひくっ…いなくなっちゃった」
「ミーちゃんが…えぐっ…どこかいっちゃった」
 二人は揃った口調で言った。さすがは双子。
「そっか。じゃあ、ミーちゃんを探してあげるよ」
 ハルはそう言いながら、二人の頭を撫でる。そして、
「…あの、お兄ちゃんがね」
 僕の方を、指差した。
「…へ?」
 僕?
「ほんとぉ?」
「ほんとぅ?」
 揃って、明るい顔になる二人。
 シンプルでいいな、子供は…
 僕は、複雑な笑みを浮かべながら、そう思った。

「あたし、めう」
「ぼくは、とう」
「めうちゃんに、とうくん、ね。…どうやって、ここまで来たの?」
「わからない」
「わかんない」
 揃っているようで、微妙に違う二人。
 しかも、一人男の子だったし。
「ミーちゃん、っていうのは?」
「ミーちゃんは、ミーちゃんだよ」
「ミーちゃんは、ねこちゃんだよ」
 つい昨日、ようやく片付いた事務所で、僕らは事情を聞いていた。聞き役はハル。僕は後ろに突っ立っている。
「いつごろ、いなくなっちゃたの?」
「きのう」
「きのう」
「どこで、いなくなっちゃった?」
「こうえん」
「こうえん」
「そっか…おうちの近く?」
「うん」
「そう」
「おうちは…どこなのかな?」
「あっち」
「こっち」
 指差した方角からは、どこなのかちっともわからない。
「電車で、来たの?」
「あるいてきた」
「はしってきた」
 ということは、近くだな…
 西新宿のはずれの、住宅街の方か?
 ハルは、二人の目をじっと見て、
「わかった。じゃあ、まかせといて。必ず、ミーちゃんを見つけるから」
 ハルは、胸に手を当てて、首を斜め後ろに向けた。
「このお兄ちゃんがね」
 …やっぱり?
「おねがいします!」
「おねがいします!」
 揃っておじぎする子供。
 …
 やれやれ。
「おっけい、まかしといて。そういうの、僕、大得意だからさ」
 とりあえず、言ってみる。
「ありがとう!」
「ありがとお!」
 キラキラした、その純粋な瞳が、まぶしかった。

「…ってわけで、記念すべき最初の依頼人だよ。がんばってね」
 ぽんぽんと、僕の肩を叩くハル。
「依頼料は?」
「え、フユキ、あんな子供からお金取るつもり?」
「いや、そんなつもりはないけど…じゃんじゃん稼ぐのが目的じゃなかったの?」
「そうだよ」
「じゃあ…」
 こんなことに、時間を割いている場合か?
 昨日、貯金が底を尽きた、って言ってたのは、誰だ?
「だからこそ、だよ」
 ぴ、っとハルは人差し指を立てて見せる。
「いい?口コミっていうのは、こういう何気ないところから広まっていくんだよ?これを見事解決してごらん?依頼どっさり、うはうはだよ?」
 うはうは、なんて久しぶりに聞いたな…。
 それはともかく、そううまくいくだろうか?
 相変わらずの、超楽観&行動主義。
 まぁでも、
 やるしか、ないか。
「そだね…じゃあ、いっちょ、見つけてくるよ」
「がんばってね」
 にこやかな微笑みに背中を押され、僕は調査へと出向くことになった。

 ニノキ解決事務所。
 テナントなんて当然のごとく入っていない、あのビルの連なる白紙の看板の中、唯一その文字だけが、ひっそりと丸ゴシック体で記してある。
 6階にある事務所の片付けが終わったのが、つい昨日。ようやく操業を開始しようかという矢先に飛び込んできたのが、この依頼ってわけだ。
「手がかり、なさ過ぎだよなぁ…」
 山手通りを越えた住宅街の細い路地を歩きながら、独りぼやいてみた。あの子たちの家もわからない。ミーちゃんの特徴もわからない。捜索するのがこの辺りでいいのかもわからない。

『あ、この子たちは置いて行ってね』
 僕が捜索に出向こうとしたとき、ハルはそう言った。
『え、でも…』
 それじゃあ、調べようがないのではないか?
 せめて、家くらい教えてもらわないと。
『いいから…ね?』
 有無を言わさぬ口調の、ハル。
『…』
 ハルのことだ。何か、考えがあるのだろう。
『…わかった。じゃあ、行ってくるよ』

 僕は、しぶしぶ頷いて、今ここにいる。
 住所を見ると、渋谷区、と書かれている。通りを越えたら、もう新宿ではないらしい。
「あー、ミーちゃーん。でてこーい。でてきてー」
 言ってはみたが、辺りには猫の影ひとつなかった。

「えぇ、ミーちゃんっていう猫を探してまして…特徴?えぇ、それが僕にもわからないんですよ…え?ち、違いますよ。そんな、訪問販売じゃ…あ」
 ばたん!
 派手にドアを閉められた。しゃっ、とカーテンの閉まる音までする。
 これで15件目…
 相変わらず、手がかりは何もつかめない。
「無駄、かなぁ。聞き込みなんかしても」
 でも、それ以外になす術など、ない。
 仕方ないので、とりあえず一息つこうと、角の広場のベンチに腰掛ける。
 ちょうど下校時刻なのか、小学生の団体が、じゃれあい、ふざけあいながら家路についていた。
 そう言えば、あの子たち…学校はいいのか?
 まさか、さぼってきたのだろうか?
 だとすると…!
「ねぇ、君たち」
 小学生の群れに声を掛ける。
 標的、変更だ。
「今日、学校を休んでた双子の子って、知ってる?」

1時間後。
 僕は、再び広場のベンチに腰掛けていた。
 収穫、なし。
 この辺りの小学生には、まんべんなく声を掛けてみたのだが、有力な情報はひとつも得られなかった。
 しかも、さっきから向かいの家のおばさんの視線が痛い。
 絶対、変質者とか思われてるだろ…
 ため息をひとつ。
 なんだか、暗いな…
 空を見てみると、いつの間にか雲行きが怪しくなっていた。雨が降るかもしれない。
 いや、この寒さからすると、雪かな。
 まだ、暦は3月の初め。春とは言え、コートなしでは出歩けない気温だ。しかも、今日は特に冷え込んでいる。
 雪、か。
 1年前を、思い出す。
 大切な人たちを、失ったことを。
 大切な思い出を、忘れたことを。
 自分自身と向き合った、あの夜を。
 僕は、
 僕の選択は、
 正しかったのかな。
 これで、よかったんだよね?
 間違っていないよね?
 目を閉じて、
 目を開くと、
 目の前に、少女が立っていた。
「…」
「…」
 めう、とう、の二人と同い年くらいだろうか。だが、若干こちらのほうが大人びて見える。ランドセルを背負っているということは、学校帰りなのだろうか。
 …何で、僕を見ている?
「えっと、」
 今日学校に来ていなかった、双子の子を知らない?
 聞こうした僕より先に、彼女が僕に質問を投げかけてきた。
「お兄ちゃん、あたしの猫ちゃん、知らない?」
「…へ?」
 また、猫?
 どうなっているんだ?
「昨日、ここで見失っちゃったの」
「昨日…」
 あの二人が言ってたのも、昨日。
 じゃあ、『こうえん』は、ここのことか。
 だとすると…
「昨日、何があったか、詳しく教えてもらえるかい?」
 僕は、思わず身を乗り出す。
「うん…」
 彼女は少し目を伏せてから、
「いつも、学校から帰ったら、猫ちゃんたちと散歩に行ってたの。いつもここに来て、遊んで。でも、昨日はクラスのみんなが遊んでて、あたしも一緒に遊んだの。猫ちゃんたちを忘れて。そしたら、気付いたら、猫ちゃんがいなくなってて…」
 今にも泣き出しそうな声で、彼女は言った。
「さみしかったのかなぁ。こんなこと、初めてだったから。だから、どこか行っちゃったのかなぁ」
「それで、その後、どうしたの?」
 酷かもしれないが、答えてもらわないといけない。僕はなるたけ優しい口調で、ゆっくりと話した。
「その後…?」
「家に、帰ったの?」
「その後…」
 彼女は少し考える仕草をした後、
「覚えてない…いつの間にか、ここに来てたの」
「…そっか」
 僕は、知っている。
 この世界の常識は、常識なんかじゃなく、
 この世界の摂理は、摂理なんかではないことを。
 何でも知っていると思い込み、
 何でもできると思い込んで生きている、僕たちこそ、
 何も知らないし、何もできないってことを。
 髪に触れる、冷たい感触。
 見上げると、小さく、雪が舞い落ちてき始めた。
「…もう、寒くなってきたから、家にお帰り」
 僕が促すと、
「でも…猫ちゃんが…」
「大丈夫。すぐに帰ってくるよ。僕にまかせておいて。保証するよ」
 しぶる彼女に、笑ってみせた。
「…ほんとう?」
「ほんとう。だって僕は、かの有名なニノキ解決事務所、副所長だからね」
 って、言ってもわかんない、か。
 有名じゃないし。
「…わかった。じゃあ、約束だよ」
「あぁ、約束だ」
 僕らは、指切りを交わした。
「…嘘ついたら、ハリセンボンのーます!」
「おっけい。さぁ、ちゃんと帰るんだよ」
 うん、と頷いて、彼女は踵を返した。
「あ、ごめん」
 僕の言葉に、彼女は振り向く。
「最後に、名前だけ教えてもらっていいかな」
「あたしは、ミネコ。スズカ・ミネコ」
「ミネコちゃん、ね。ありがとう。確かに、約束したよ」
 僕は、笑顔で手を振った。彼女も、笑顔で返した。

「ただいま」
「お疲れ様、フユキ。どうだった?」
 言いながら、雪でぐしょぐしょになった僕を、タオルでがしがしと拭くハル。
 …もうちょい優しくしてもらえませんかねぇ…?
 ま、いいんだけど。
「あの子たちは?」
 僕は尋ねる。
「帰ったよ、家に」
 そうか…
 無事、解決か。
 そんなことだろうとは、思ったけど。
「ハル…あのさ」
 なされるがままに拭かれながら、聞いてみる。
「最初から、全部わかってたんでしょ?」
 あの子たちの正体も、
 事件の起こった理由も、
 単純で、難しい、解決策も。
「うーん、どうかな」
 とぼけるハル。
「まぁ、1年前だったら、僕も信じちゃいないだろうけどさ…」
 ハルと出会って、学んだこと。
 それは、常識の意味のなさ。
 世界に、常識などない。
 それは、人が作った物差しに過ぎない。
 人によって違う物差し。
 事実を計る、物差し。
 それは、真実を計るのには、使えない。
「あの子たちが、嫉妬しちゃったんだね。一瞬、ミーちゃんがいなくなっちゃえばいい、なんて事を想ってしまった。そして、奇しくもそれが『叶え』らえちゃったわけだ」
「最後に愛は勝つ、だね」
「ちょっと違うような…」
「とにかく、フユキも気付いたみたいね。合格合格」
「合格て…」
 何に合格したんですか、僕は。
「それから、祝・初依頼解決!今日は、ぱーっといこうよ」
「…お金は?」
「気にしない気にしない、さ、行こう!」
「えっと、外、雪なんだけど…」
 僕の言葉など気にもせず、ずんずん入り口へと進んでゆくハル。
 やれやれ。
 ふと、さっきまであの子たちが座っていたソファを見つめる。
「…ん?」
 よく見ると、ソファの隅に、小さな金色の鈴が、2つ。
 寄り添うように、小さく眠っていた。

「うわぁ…」
 雪はだいぶ強くなっていた。ビル風も相俟って、相当寒い。
「ゆっき、ゆっき♪つもれ~」
 先に出ていたハルは、玄関先ではしゃいでいた。元気なことだ。ぶるぶる。
「お、フユキ、遅かったね」
「何でそんなに元気なんだよ…」
「いや~だってさぁ」
 ハルは、器用にくるくる回りながら、
「一年前、思い出すじゃん」
 笑顔で、言った。
 一年前。
 僕と、ハルが出会った、あの事件。
 それもたしか…こんな雪の日だったっけ。
 春に降る、雪の日。
「そう、だったっけ」
 もう忘れたよ、とそっけなく言ってみる。
「もしかしてもしかして…」
 ハルの回転が止まった。
「気にしてる?」
「…何が?」
「べっつに~」
 ハルは天を仰いだ。僕も天を仰いだ。
 雪は、無言でただ降り続く。
 不公平なくらい、平等に。
 理不尽なくらい、正当に。
「さ、行こうぜ。さすがに寒い!」
「そだね~」
 僕らは揃って、落ちた雪が融けていく道を歩きだした。

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2010年9月13日 (月)

高(略)だら

ついに8月書けなかったぜ!今月からはちゃんと書こう。そうしよう。

ようやく夜は涼しくなって参りましたが、昼間は未だ灼熱ですね。燃え尽きるほどヒートっ!

そんなこんなで、ようやく、とうとう、何ともはや、ついに、何と、えっと、なんだっけ?(おいおい)

わしゃまだボケとらんわい!まだまだ現役じゃて!

えーと、話が衛星軌道までそれましたが、そう、オリジナルをMySpaceにアップしました!

http://jp.myspace.com/yuohta

ページの編集は全くしとりませんが「Voice」をアップしておりますのでよろしければ聴いてみてくださいまし。

少しずつ増やしていく…かも。

かも南蛮!



ついに今話題の「高校野球の女子マネージャーがドラッガーのマネジメントを読んだら」を読んだら?、じゃなくて読んでしまいました。しかも泣いてしまった!不覚…

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