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2010年12月

2010年12月28日 (火)

春に降る雪⑮ 第四章その5~回想4


建ったばかりのマンションの影に、三丁目の公園はあった。
もともと一軒家の乱立する路地の奥にあった公園は、新築のマンションが建ったことによって、大通りからは完全に死角になっている。忘れ去られたような場所だった。
閑静な住宅地。時刻は0時を過ぎようとしていた。
公園、という名ではあるが、遊具といえば、今にも壊れそうなブランコと、申し訳程度のすべり台だけで、あとはただの広場といった感じだ。子供たちにとっては何も無い方が、自由に遊べて良いのかもしれない。あるいは、単なる予算不足か。
そんな、白い外灯に照らされたブランコに、一人腰掛けている人物。
黒いコートに、特徴的な長い銀髪を後ろで束ねている。
あいつだ。
僕が近づくと、銀髪はゆっくりと立ち上がった。
190センチもあろうかと思わせる長身。体格は並といった程度。むしろ痩せているほうか。影になっていたため、表情までは推し量れなかった。
「フユキ・コウセツだな?」
先に声を出したのは、銀髪の方だった。少年のような、高い声。外灯に照らされた銀の髪が揺れる。
僕は返答できず、ただ黙っていた。
なぜ?
なぜその名前を知っている…?
「刑事さんに聞いたぜ。お前、殺人鬼らしいじゃねぇか。なんて奴だよ」
銀髪は喋り続ける。からかうような、笑いが混じった声だった。
真吾の家での会話を、聞いていたのか?
つまり、あの現場に、いた?
「お前は…誰だ」
僕は怒りを殺して、問うた。
お前が、やったのか?
マスターを、真吾を、咲々を、
お前が…!
今にも溢れそうな感情を、抑えるのに僕は必死だった。燃えるように、胸が熱い。心臓は暴れまわるし、胃は煮えたぎっている。だけど、それはそのまま、奴の付け入る隙になる。冷静にならなくては。心を鎮めなくては。
奴を、殺すために。
「俺か?俺は…」
銀髪の視線が空へと向く。
「殺し屋だよ」
…何?
思わぬ返答に虚を突かれた、その刹那、
目の前から銀髪の姿が消えていた。
瞬きをしたわけでもなく、
目も逸らしてはいないのに、
先ほどまであった姿が、まるごと消え失せていた。
「なっ…」
「それじゃあ、」

不意に聞こえてきた声は背後からだった。
振り向こうとした瞬間、後ろから腕ごと体を羽交い絞めにされる。しかも、左腕だけで。僕の両腕は封じられ、銀髪の右手は自由なままだ。
「…っ!」
振りほどこうともがいてみるが、びくともしなかった。怪力というわけではない。最小限の力で、どこをどう押さえれば相手を無力化できるかを熟知した押さえ方だった。
くそっ!
「死んでもらいますか」
かちっ。
「!」
右のこめかみに当たる冷たい感触。
目をギリギリまで右に寄せて確認した・・それは、
日常では有り得ない、モノ。
一般人は触れることのない、モノ。
間違いなく、それは、拳銃だった。
まずい。
終わりだ。
これがシナリオ。
これがフィナーレ。
全身から、血の気が引くのがわかる。
「死」が、実感として伝わってくる。
体を支配していた熱が、凍り付いていくのがわかる。
今、僕の頭につきつけられている・・コレは、本物だ。
銃口から伝わってくる、鈍い冷たさが、昏い重さが、それを証明している。
記憶が、走馬灯のように駆け巡る。
死ぬときって、ホントにこうなるのか…。
父さん。
頑固で、頑なに正しかった、父さん。
母さん。
子供みたいで、でも本物を知っていた、母さん。
ヘッドライト。
バックミラーに映った、光。
ブレーキ。
耳を貫く、音。
病院。
鼻を衝く、薬の匂い。
地下。
綺麗な、青白い顔の、二人。
ササ。
逃げ出す僕を、黙って抱きしめてくれたっけ。
東京。
全てを忘れさせてくれた、都会。
大学。
囲われた、僕の世界。
学食。
いつもの、ルーチンワーク。
シンゴ。
変化の兆しを、くれた。
『エフ』。
あんな店、初めてだった。
マスター。
よくわからない、人だったけど。
ハルカ。
そして、僕は彼女に出会う。
雪。
雪が…降っていたっけ。
弾ける音。
何の、音だ?
退学届。
僕は、確かにそれを書いていた。
酒。
マスターに殴られた、夜。
ウノエさん。
いつでも、優しくて、強い人。
向日葵。
夏が、去って。
北風。
また、冬が来て。
3月。
そして、1年が経って。
駅。
再び、出会った彼女。
501。
ササも、転がり込んできて。
薬壜。
有り得ない、光景。
刑事。
僕が、コロシタ?
言葉。
わからない、伝わらない。
水の音。
声も、出ないほどに。
銀髪。
すれ違った、影。
紙切れ。
僕は、闘いを決意して。
名前。
なぜ、それを知っている?
拳銃。
終わりの、風景。
チェック・メイト。
…あれ?
まさか…。
そんな。
「さよならだ」
耳元で囁く銀髪の声が、どこか遠くに聞こえる。
そうか…そういうことだったのか。
だったら、僕は、
僕は、こんなところで死んでいるわけにはいかない。
だが無情にも、銀髪の指はすでに引き金に掛かっていた。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
必死に体を動かすが、銀髪の腕はビクともしない。
…万事休す、か。
「おやすみ、フユキちゃん」
銀髪が囁いたそのとき、
――!
そのとき、ほんの一瞬だけ、
ほんの一瞬だけ、僕を捕らえている腕の力が緩んだ。
僕に与えられた、最後のチャンス。
逃して、たまるか!
生きようとする意志が、爆発的な暴力が、体を駆け巡る。
その隙を逃さず、僕は思いっきり腕を振るって、掛け声と共に、
「うあぁ!」
銀髪の腹に、ありったけの力を込めたひじ撃ちをかました。
どすっ!
「うっ」
銀髪の口から、呻き声が漏れる。
がしゃんっ。
銀髪が拳銃を取り落とした。結構効いたようだ。すかさず、僕は思いっきり暴れて腕を振り解くと、落ちた拳銃を蹴り飛ばす。
がしゃっ
銃は、回転しながら離れていった。
よしっ。
今しか、ない。
振り向いて、銀髪と正面から相対する。外灯に照らされたその顔は、長身に似合わない華奢な顔立ちだった。
距離はゼロ。勝負は一瞬だ。
「てめぇ…」
僕はポケットに手を突っ込んだ。このために用意した「切り札」。咲々の荷物の中にあった、特製スタンガンを、僕は持ってきていた。あいつの彼氏によって、強力に改造されている、護身用にしては強力すぎる代物だ。
『ほら、あたしってば、か弱いカリソメ乙女だからさ』
なんて言ってたっけ、あいつ。
洗面台のところに無造作に置いてあったから、危うく髭剃りと間違いそうになった。
『よかったねぇ、フユキ。スイッチ入れたら、病院行きだったよ』
『そんなに強力なのかよ!』
そんなもの、無造作に置いておくなよ…
そうは言ってみたものの、相変わらず洗面台に置いてあった、スタンガン。
闘いを決意した僕の目に入ったのが、それだった。
僕が勝つには、一撃必殺のこいつをお見舞いするしかない。
スイッチを入れながら、奴に向かって突き出した。
「あぁぁぁ!」
「うらぁぁ!」
銀髪も、ほぼ同時にパンチを繰り出してきていた。
ばきっ!
バチィッ!
銀髪の拳は、僕の顔を真横から正確に捉えた。体ごと吹っ飛ばされる。偶然にも、1年前マスターに殴られたのと同じ箇所だった。
僕のスタンガンも銀髪を正確に捉えた。が、服の上からだったためか、ダメージは浅かったようだ。僕は地面に崩れ落ち、奴はまだ平然と立っている。
ラストチャンス、だったのに。
「もう、あきらめな」
倒れた僕にゆっくりと歩み寄りながら、銀髪が言う。
僕は上半身だけ起こし、それに相対する。
「そうは、いかないみたいだ」
なぜなら、運命は僕に味方した。
かちっ。
「!」
僕が構えたのは、先ほど蹴り飛ばした拳銃だった。ちょうど、僕が殴り飛ばされた所が、拳銃が転がった場所だったのだ。
僕の蹴りの弱さと、銀髪のパンチの強さが、この結末を呼んだ。
「…ちっ」
後ずさる銀髪。
「僕は、お前を…許さない」
僕は、躊躇せず引き金を引いた。
ぱんっ!
衝撃に、思わず目をつぶる。
ぱんっ!ぱんっ!
3発撃ち終えて、おそるおそる目を開けると、見えたのは銃口から細く立ち昇る煙だけで、すでに銀髪の姿はどこかへ消え失せていた。
当たったのか、避けたのか。
隠れたのか、逃げたのか。
どちらにしても、この音で起こされた住民が、様子を見に来るかもしれない。
さすがに、それはまずいな…。
ここで捕まるわけには、いかない。
僕は、やり遂げなきゃならない。
そういう、運命なんだ。
僕は銃をコートの内ポケットに突っ込んで、足早に公園を後にした。
ずしりと、胸に重かった。


               *

「うーん、どうするか」
僕は誰もいないロビーで独り呟いた。手のひらの上のヘアピンを眺めながら。

ハルカと別れて、僕は先ほどまで、来た道を戻っていた。
別れ際の彼女の表情が、無性に気になっていた。
『あー、なんでもない』
絶対、何かあるよな…。
だが、部外者の僕が何か口出しできるか?
悶々とした気持ちで、とぼとぼと僕は歩いた。
寒いな…。
風は容赦なく吹き付ける。そんなんじゃ、コートは脱がせられないぞ。
何かが落ちているのに気が付いたのは、ちょうど半分ほど道を戻った辺りだった。鈍く光る、朱いヘアピン。だいぶ年季が入っているみたいだ。
ハルカの鮮やかなオレンジ色のヘアピンを思い出す。
タイミングから見て、彼女の物だろう。きっと。
そっと拾って、ポケットに入れる。
僕は引き返すことにした。この落とし物を届けるために。
あるいは、もう一度彼女に会いたいがために。

研究棟まで戻り、ロビーに入った。蛍光灯の明かりがやけに眩しく、リノリウムの床を照らしていた。人の気配は、ない。長椅子が、平坦にいくつか寝そべっているだけだった。
5分ほど待ったが、ハルカが戻ってくる様子はなかった。
引き返している途中で会わなかったということは、まだおそらくはここにいるはずだ。
准教授の部屋を探してみるべきか?
ここで待つべきか?
あきらめて帰るべきか?
答えは?
「…さぁて」
僕は呟きながら、ポケットの中のヘアピンを握りしめた。
入り口の案内を見る。1階・ロビー。2階・実験室、院生室。ということは、日々井准教授の部屋は…3階だ。


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2010年12月25日 (土)

ホワイト餃子

♪こと~しも~雪~のな~いと~しのせ~

ってなわけで、いよいよ年の瀬ですね!

でもまだ仕事納めは終わってないのです!油断は禁物だ!

ちなみに明日は中野サンプラザでカホン(パーカッション)叩いてきます~


まったく関係ないけど、ちょっと前にテレビで見ました。

…って内容を書こうと思ったのがだいぶ前なので、ちょっとだいぶ前見ました。

ホワイト餃子ですよ、ホワイト餃子!

知らない人はwebで検索してみよう!ネット社会バンザイ!

並みの餃子とは一線を画すのですよ。知る人ぞ知る…ってやつですね。

本店が千葉にあって、本店で修行して認められた人だけが「技術提携店」としてホワイト餃子を売れるんですよ。

なんと我が地元・佐賀県武雄市にも1店あるのですよ!

九州全体で2店しかないんだぜ!(自慢です。拍手してあげてください

いやほんと並の餃子じゃないんだってばさ。

あ~久しぶりに食べたいなぁ~(何かを訴える遠い目)


あ、そういえばクリスマスですね(笑)


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2010年12月21日 (火)

春に降る雪⑭ 第四章 その4

暗い夜空を見上げながら、僕は夜道を家へと歩いていた。空にはうっすらと雲がかかっていて、月も星も姿が見えない。
ひとつだけため息をつく。意味のない儀式。
真吾まで…どうして…?
押し留まっていた疑問符たちが、急に浮かんでは、泡のようにはじけて消えていった。
『必ず、尻尾をつかんでやるからな』
あの刑事の言葉が脳裏によぎる。
僕が…犯人か。
笑いたい気分だった。
もう、どうにでもなれよ。
嘘のように関わりあっていた人たちが、嘘のように消えてゆく。
人生というのは、その繰り返しなのか?
消えてゆく?
いや、消されたんだ。
誰かに。
「…ちくしょう」
小さく呟く、声にならない声。
叫びだしたい衝動を、必死にこらえる。
僕は。
僕は。
僕は…!
皆、消えていく。
皆、去っていく。
皆、死んでいく。
僕だけを残して。
僕は歩いた。
ひたすらに。
意識もせずに。
それでも、足は自然と家の方向へと向かっていた。
無意識に、ぬくもりを求めているのだろうか?
誰かのぬくもりを。
咲々。
あるいは、晴香。
人の気配を感じて、僕はのろのろと顔を上げる。
正面から、黒のトレンチコートに身を包んだ銀髪の人物が、まっすぐ僕の方へと歩いてきていた。ずいぶんと目立つ髪だ。渋谷のど真ん中ならまだしも、こんな住宅街ではひどく浮いている。その背の高いシルエットだけが、現実から乖離したドラマの世界であるかのように。
ぼんやり眺めていた僕を意に介さず、銀髪は僕に向かって前進してきた。あわてて避ける。間一髪。
前くらい、見とけよ。
自分も避けようとしなかったくせに、相手の不注意だけを心の中で責める。ひどく、ドロドロした気分だ。
相手は振り返りもせず、歩いていった。
いっそ、ぶつかったら、
何かが変わったのかな?
ぬくもりを得られたのかな?
僕を、殺してくれたのかな?
思考が澱んでいるのが、自分でもよくわかる。
黒い、トレンチコート。
特徴的な、銀髪。
そのとき、
すっ、と意識が現実に引き戻された。
…あれ?
ちょっと待て…!
超速で巻き戻される記憶の断片。
すぐさま、後ろを振り返る。
今しがたすれ違った影は、すでに路地の曲がり角の向こうに消えていた。
特徴的な銀色の髪をした、黒いコートの長身の人物。
あの銀髪は…!
確かに、見覚えがあった。
いや、忘れるはずがない。
思い出せ!
思い出せ、思い出せ、思い出せ!
あれは…
おもちゃ箱をひっくり返すように、記憶の断片を頭の中でぶちまける。
どこだ!
駅…駅の階段?
いつ?
昨日…昨日の駅で…
そうだ!昨日、『エフ』に向かう途中に駅ですれ違った、黒いコートに銀髪の男だ!
そう、昨日の朝、駅の階段を上っているときに、
大勢すれ違う人の中で、一際目を引いた銀髪の男。
階段を上っていた僕の真横を通って、下りていった男だ!
一瞬、視界に捉えた記憶がある。
間違いない。
一瞬だったけど、あの銀髪は見間違うはずがない。
特に意識もせず、記憶の片隅に残っていた映像と、
そして、今すれ違った男が重なる。
どくん。
嫌な汗が背中を走る。
昨日は…つまり、『エフ』でマスターが…
なんで、あいつはあの時間に階段を下りてきていた?
そして、なんで今、こんな住宅街に?
今、あいつが来た方向には…
僕のアパートが!
最悪の想像が、頭の中で瞬く間に形成される。ルービックキューブみたいに、カチリ、と音を立てて。
考えすぎだ。
考えすぎだよ。
そんなご都合主義、あるものか。
そう思いながらも、体は裏腹に弾かれたように走り出した。
まさかまさかまさか!
あいつが!
『あの店のマスターは、自殺したんじゃない。殺されたんだ。これはれっきとした、殺人事件なんだよ』
あの刑事の言葉が、耳の中を反響する。
『殺されたんだ』
僕に?いや、
ちがう!
あいつに!
一方的な決め付けだとはわかっていた。
どうしようもないこじつけだとは気づいていた。
なのに、
体が言う事を聞かない。
思考が暴走を止めない。
グリーンハイツに着くや否や、僕は入り口のドアを乱暴に開け、エレベーターのボタンを連打した。
エレベーターが来るまでの時間が、永遠にも感じられる。
早く早く早く!
声に出さずに、叫ぶ。
まだ、エレベーターは来ない。
「くそぉっ!」
エレベーターをあきらめ、僕は階段を一段飛ばしで駆け上った。
2階!
昨日の、マスターの最期の姿が浮かんでくる。
そう言えば、鍵は開いていた…。
いつも出勤時は閉まっているはずの鍵が、どうして?
マスターが開けたに決まっている。
なぜ?
誰かを、招き入れたから?
3階!
『これはれっきとした、殺人事件だ』
鐘の音のように、刑事の言葉が耳の奥で響く。
サツジン。
ヒトが、ヒトを殺すこと。
4、階!
咲々!頼む!無事でいてくれ!
すべてが、僕の思い違いで、
悪なる妄想で、
邪な偶像で、
あってくれ!
はぁ、はぁ。
やっと、5階までたどり着く。
501!
がちゃっ。
ドアノブは、何の抵抗もなく開いた。部屋の中が暗い。電気がついていなかった。
「ササ…?」
呼びかけながら、照明のスイッチを入れた。
パチン。
「え?」
誰もいない。
誰も、いない?
どくん。
冷たい汗が、額から流れていく。
どういうことだ?
咲々はどこに…?
最悪の妄想が、現実に?
テーブルの上には、一杯のコーヒー。
まだ、湯気が立ち昇っていた。
わからない、わからない、わからない。
僕の周りで、何が起こってるんだ!
僕は膝をついて、頭を垂れた。
僕からどれだけ奪えば気が済むんだよ!
僕に何を求めてるんだ!
謝罪か?憤怒か?後悔か?
答えろぉっ!
溜まりに溜まった苛立ちを、コーヒーカップにぶつけた。机から勢い良く弾き飛ばされたカップは、中身を盛大にぶちまけて、床に転がった。
黒い液体が、ジワリと床に染み込んでゆく。
まったく、気は晴れなかった。
「ちくしょう…」
空っぽになった気分だ。
そう、まさに、今そこに転がっているコーヒーカップそのもの。
僕も弾き飛ばされた。
僕だけが弾き飛ばされた。
現実という名の虚構から。
現象という名の幻想から。
そして僕は床に転がるだけ。
何もできずに、床に転がるだけ。
虚ろな目で、部屋を見渡す。
クローゼットが、少しだけ開いているのが目に付いた。
あ、閉じなきゃ。
ふらり、と僕は立ち上がる。
元通りに。
扉を。
世界を。
僕自身を。
クローゼットの扉に手をかけて、
深呼吸。
わかっているよ。
閉じる前に、僕はこの扉を開けなくちゃならない。
なぜなら。
僕は、クローゼットを開け放って、そして。
そしてやはり、咲々を見つけた。
目を閉じた咲々の隣には、見慣れた茶色の薬の小瓶。
あぁ、やっぱり。
僕は淡々と、それを見ていた。
もう、冷たくなった体を。
もう、開かれない目を、口を。
ポケットから同じ色の小瓶を取り出す。
偶然かな、ラベルまでおんなじだ。
昨日までの、彼女を思い出す。
生きていた、彼女を思い出す。
『みんな…逝くのですか、ってね』
いつぞやかの、咲々の冗談めかした科白が甦る。
その通り。
みんな…逝ってしまったよ。
再び、現実の彼女に目を向ける。
きっとまた、腕には注射の跡が発見されるんだろう。
見慣れた、光景だった。
見慣れてしまった、光景だった。
ただ、一箇所を除いては。
「…?」
ひとつだけ、見慣れないものがそこにはあった。
咲々の右手に、挟まった紙切れがひとつ。
名刺サイズの紙切れ。
冷たい手に、そっと触れて、
紙切れを引き抜く。
裏は真っ白、表には、
『三丁目公園で、待っている』
乱暴な字で、そう書きなぐってあった。
僕は紙切れを握りつぶすと、思いっきり壁に投げつけた。
ちくしょう。


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2010年12月14日 (火)

予感

おヒサしブリでス!!

いやはや、師走とはよく言ったもんだぜ…なんだかあわただしく日々が過ぎております今日このごろ。寒いっす。

なんやかんやサポートでパーカッション叩かせていただいたり、弾き語りさせていただいたり、まったり、ぐったり、食あたり…はしてないけど、ともかくそんな感じです!(? )いや、ふつーに元気ですよ!

何はともあれ、アレコレ参加させていただきまして、ありがとうございます!お呼びいただいた皆様・来てくださったお客様に感謝。

あと、合間を縫ってさだまさしさんのコンサートにもちゃっかり行って参りました(笑)。幸せ(はぁと)

来週もがんばるぞ!オー!ってか今週だった!今週まつもコンサートのサポートでパーカッション叩いてきます!えっと、僕、何屋さんでしたっけ(笑)。



オマケ
日曜日弾き語りさせていただいたコンサート後、打ち上げでの写真です。

髪切ったんだぁ、実は。

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2010年12月11日 (土)

春に降る雪⑬ 第四章その3



「また、君か」
火が点いたタバコを咥えたまま、スーツ姿の刑事は一言静かにそう言った。服装は昨日と同じ。おそらく家に帰っていないないのだろう。スーツの皺は一段とひどくなっていた。
真吾の姿を見つけてから、どれくらい水の音を聞いていただろう。ふと、僕は立ち上がって、真吾の手首をそっと掴んだ。伝わってくるのは、ぞっとするような冷たさだけだ。掴んでいた手を離して、緩く閉じられていたシャワーの栓を、きつく締め直した。
最早、疑問符も浮かんでこない。
もう、どうでもいい。
機械的にケータイで110番をプッシュする自分の指を、僕は他人事のように見ていた。
数分後にやってきたのは、『エフ』に来たのとほぼ同じ面子に見えた。正直言って、刑事以外の捜査官の顔なんて覚えていないのだが、それぞれの仕事ぶりが、感動的なほどに『エフ』のときと同じだった。あるいは捜査官というものは、皆こういう仕事ぶりが普通なのかもしれない。まぁ、どちらでもいいのだけど。
6畳の部屋で、所狭しと現場検証に躍起になっている捜査官たちを尻目に、刑事はやはり面倒くさそうに煙を吐き出すと、
「ちょっと、外、出ないかい?」
と、僕を連れて部屋の外に出た。
どれくらい真吾の部屋にいたのだろうか。老朽化が進んでいるコンクリートのフェンス越しに、沈もうとする夕日が見えた。もう夕方なのだ、という事実に素直に驚く。
塗装が剥げ、ざらざらとしたコンクリートが剥き出しになっている廊下で、僕と刑事は向かい合った。刑事が、タバコを足元に捨て、踏み潰す。
「それじゃあ、恒例の事情聴取を始めようか」
そう言って、刑事はニコリと笑って見せた。
僕は笑わなかった。  

マスターの死を伝えるために、ここへ来たこと。部屋の鍵が開いていたこと。変わり果てた真吾を発見したこと…。僕はただ淡々と語る自分の口許を見ていた。まるで、誰かが操っている腹話術の人形みたいに、すらすらと澱みなく言葉が流れていった。
「…なるほど」
一通り話して僕が口をつぐむと、刑事はそう言って、新しいタバコに火を点けた。今日は初っから手帳すら広げていない。
ため息のように煙を吐き出すと、刑事は僕を見た。さっきまでとは違う、厳しい視線で。
「…しらばっくれんのも、いい加減にしとけよ」
吐き棄てるように、刑事は言った。
しらばっくれる…?
何の事だ?
「あの店で、ガイシャの死因は自殺だって言ったよな?覚えてるか?覚えてるよな。あれは、嘘だ。正確には、自殺とも他殺とも取れる状況だった。現場に転がってた薬壜…えぇと、薬の名前は忘れたけど、あれは睡眠薬の一種だった。お前もよく知ってるだろ?多量に飲めば、呼吸困難を起こす類のだ。あれをガイシャに無理矢理飲ませるってのは、確かにできない。不可能だ。ということは、他殺は不可能、ってことになる。あの薬が死因なら、の話だけどな」
刑事は一息タバコを吸って、吐き出す。
「第一に疑問なのは、薬壜の中に残った錠剤の量と、あの薬の致死量とが釣り合わないことだ。あの壜から致死量分の薬を取ったら、あんなに壜の中に薬が残ってるわけはないんだよ。そうだろ?だが、実際壜の中身はほとんど残っていた。あれだけの量しか飲んでいないんだったら、人は死なない」
僕は、黙って聞いていた。
僕が拾った分を差し引いても、ほとんど残っていたのか?
だとしたら、確かに致死量には程遠い。 「第二の疑問は、入手経路だ。あんな危ない副作用を持つ薬、一般に売っているわけがない。医者でもなかなか処方しない薬だ。万一、どこかの医者が処方していたら記録に残るわけだが、洗いざらい調べた結果、そんな記録はどこにもなかった。つまり、ガイシャはあの薬を入手できなかったことになる」
「何が、言いたいんですか?」
僕は口を挟んだ。
「もったいぶらずに早く言え、って顔だね」
刑事は少し笑った。作り笑顔ではなく、心底楽しそうな笑み。
「それじゃあ言おうか。彼らを殺したのは君だよ。君は、人殺しだ」
投げかけられたのは、僕を凍りつかせるのには、十分な言葉だった。
僕が…コロした?
「調べさせてもらったよ。君は、1年ほど前に大学を退学しているね」
「それが…」
「何か、って?それが重要なんだよ。なぜなら君は理系の学生で、生命理学っていうのを専攻していたらからな。つまりは、こういう危険な薬物をも扱える立場にいたわけだ。もちろん、知識も有った」
刑事はスーツの内ポケットから、透明なビニール袋に入れられた壜を取り出した。紛れもなく、現場に転がっていたのと同じ壜だ。
「当然ながら、これ以外の薬も扱えたし、その知識も持っていた。だけど残念ながら、それを扱うためのモラルには欠けていたようだな」
刑事はタバコの灰を床に叩いて落としながら、続ける。
「あの店のマスターは、自殺したんじゃない。殺されたんだ。これはれっきとした、殺人事件なんだよ。…何の恨みかは知らないが、君はマスターを殺すことにした。だが、マスターが殺されたとなると、身近にいる自分が真っ先に疑われるのは目に見えている。そこで浅はかな君は、彼の死を自殺に見せかけようとした。大学構内に侵入して、この睡眠薬と、同じく呼吸困難を引き起こす別の薬品とを盗み出す。…まだ発覚していないあたり、手際は良かったんだろうけど、調べればすぐにわかることだ。揮発性の麻酔薬も一緒に盗んだのかもしれないな。違うか?抵抗されたらひとたまりもないだろうしな。…おそらくは薬を嗅がせて気を失ったマスターを薬品の注射で殺害した後、中身を適当に減らした薬壜をばら撒いておいた。そして自ら通報した…第一発見者を装っておけば、多少不自然な点があっても見逃されると思ったのか?…自殺だと判断されたら、司法解剖はされないとでも思っていたのか?まったく、軽率だったな。ガイシャの全身から、今頃お前が盗んだ方の薬の反応が出ているだろうさ」
「…」
「マスターの腕からは注射の跡が見つかっている。本命はそっちなんだろう?それがマスターの死因だ。自殺なんかでは有り得ない。不可能だ。あの時点――昨日の聴取中にそれはわかっていたんだ。だが、君には自殺だと言っておいた。なぜだと思う?」
僕の答えなど待たず、刑事はまくし立てる。
「君を安心させるためさ。大丈夫、君の計画はうまくいっている。何も心配なことはないんだ、って、そう語りかけたのさ。人を殺した奴は、みんな臆病者だ。何かに怯えて人を殺し、殺した後も怯え続ける。その怯えを取り去って、そっと安心感を囁いてやると、おもしろいようにボロが出るんだよ、君みたいな奴は…まぁ、まさかこんなカタチで出るとは思わなかったけどな。ここの住人にも、恨みがあったってわけか」
「それって…」
やっとそれだけ言って、二の句が告げなかった。
つまり。
僕が、
マスターを、
真吾を、
殺した、と?
どうして、僕が?
どういう、ことだ?
「言ったろ?しらばっくれんなよ」
刑事は僕の胸倉を掴んで、ねじり上げた。苦しさに思わず息が漏れる。
「首洗って待ってな、明日にでも逮捕状持ってきてやるよ」
がしゃぁん
思いっきり突き飛ばされた。今にも壊れそうなフェンスが、何とか僕の体を受け止める。
「必ず、尻尾をつかんでやるからな」
刑事はドアの向こうへ消えていった。夕日はほとんど顔を隠して、夜の闇が辺りを支配し始めていた。

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2010年12月 2日 (木)

故障フラグが立ちました!



つ、ついに…!

…!

パソコンのディスプレイが映らなくなりました!(泣)

しどい…

しかもネットで調べてみると、どうやら僕が使っている型は一年くらい経つと高い確率で画面が映らなくなるらしい…

しとど!(?)

これがいわゆるソ〇ータイマーってやつですか?(〇二ーさんの名誉のために言っておくと、僕のPCはソニ〇製ではありません。悪しからず。)

とんでもhappenだぜ!



オマケ。

季節を間違えたタンポポ。

冬に立つライオン!

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